この話を母から聞いたのは、私が三十歳を過ぎてからでした。
私は大学生の時、一人暮らしをしていました。実家からは電車を乗り継いで、2時間もかからないくらいの距離でした。
仕送りは安いアパート代と光熱費になるくらい、後はアルバイトで賄っていました。
ある日様子を見に来た母は、私があまりに痩せて貧相に見えたそうです。
そのせいでしょうか。昼食を食べようと言いました。私「お寿司が食べたい。」
母は何も言わず、「じゃあ行こうか」と歩き出しました。
その頃、回るお寿司はあったのかどうかわかりません。とりあえず、看板があったので入りました。
母はその時、しまったと思ったそうです。壁に下がった寿司のネタの板に値段が書いてなかった。
私はさっさと座り、もう出るに出られずの状態です。
私は何も知らず、
「ウニ。」
「いくら。」
「マグロ。」
と、次々に注文していました。
その時母はちらし寿司を食べていました。
気が気じゃなかったそうです。母は現金しか持っていなかった。
「ドキドキしながらお勘定見て、何とか足りた、帰りの電車代があってよかったと思ったよ。」と母は笑いながら言いました。
あの時の母は、どんな気持ちで私の注文を聞いていたのでしょう。
母はきっと、ちらし寿司の味より、財布の中ばかりが気になっていたことでしょう。

コメント